イラストレーションフェスティバル

サヌキナオヤ

サヌキナオヤ

サヌキナオヤ

イラストレーター。1983年京都市生まれ。チャールズ・ブコウスキー、坂口恭平、滝口悠生などの小説の装丁や、雑誌『POPEYE』(マガジンハウス)の表紙など書籍雑誌のイラストを手がけるほか、漫画執筆、アニメーション制作など。また、アートワークを担当するバンド「Homecomings」と共に、映画と音楽のイベント「New Neighbors」を共催している。
HP:http://sanukinaoya..com/

街が映し出す、何でもないことの愛おしさ

僕らの街には、イラストレーションが生きている。その絵を扉として、開いた先には新しい知識や経験が待っている。その存在に気付くか気付かないか、それだけの問題だ。例えば、ライブハウスに張られたポスターの絵。僕が見たのは、京都を拠点に活動しているバンド「Homecomings」が行うライブツアーのポスターだった。アメリカの球場の日常的な風景だが、細かなところまで描写されていて、日本ではあまり見慣れない画風。絵を通して知った音楽を軽快に鳴らしながら、サヌキナオヤさんの他の作品を観るきっかけとなった。

サヌキナオヤさんは、アメリカのオルタナティブ・コミックスと呼ばれる漫画群が好きで、エイドリアン・トミネやダニエル・クロウズといった作家に憧れがあるという。その影響は舞台となる街並みの景色や、細部の線の引き方にも表れているように感じるが、日本の漫画らしい背景のポップで明るい描写があるからか、どこか遠い世界の出来事ではない気がしてくる。

描かれた街は、静かな日常を生きている。人物も多くは描かれておらず、ドラマティックな場面でもない。画面に登場する人々は、それぞれの物語の主人公のようだ。寂しさの奥に耳を澄ませば、聴こえてくるのは街の音や人々の息づかい。時代の流行に左右されないオルタナティブな作品は、明日へと続く今日という一日を描く。(担当:柿本康治)